目次
副交感神経の働きを促す
副交感神経が緊張を緩和する
自律神経は身体と密接に連動していて、過緊張の状態では交感神経が優位になっています。したがって、交感神経から副交感神経へ切り替えれば、緊張はおさまりリラックスに変わります。
また、自律神経は、心臓、肺、筋肉などの各臓器をコントロールしていますが、同時に各臓器からも自律神経へのフィードバック機能があります。「交感神経優位→心拍数アップ」という司令がある一方で、その逆に「心拍数ダウン→副交感神経優位」という司令が送られるのです。つまり、各臓器の働きを調節することで、交感神経や副交感神経を自ら操作することが可能なのです。
上図の中で、自分の意思でコントロールできるのは、どれでしょうか?
さすがの森田先生でも、自由自在に心拍数を増加させたり、体温を上昇させることはできません。しかし、「呼吸」は自分でコントロールできます。「ゆっくり呼吸しよう」と意識するだけで、呼吸はゆっくりになります。また、筋肉の緊張は、「ストレッチをする」「マッサージをする」など、外的な働きかけによって、簡単にほぐすことができます。
ゆっくり呼吸する。筋肉の緊張をほぐす。この2つの方法によって、副交感神経が優位になり、精神的な緊張も同時に緩和されるのです。詳しく解説しましょう。
正しい深呼吸を行う
副交感神経が優位になると呼吸はゆっくりになりますが、その逆も真なりで、呼吸をゆっくりするだけで副交感神経が優位になります。たった1分の深呼吸で、「過緊張」を「適正緊張」に持っていくことができるのです。深呼吸の重要性については、今までに出版されている「緊張本」や「あがり症本」にも、必ず書かれています。最も簡単で、最も効果がある最強の緊張コントロール術、それが「深呼吸」です。
それにも関わらず、正しい深呼吸の方法を知らない人が非常に多いです。間違った深呼吸では、緊張をやわらげる効果がないどころか、悪化しかねません。極端な例が「過呼吸」であり、短く浅い呼吸が止まらなくなってしまいます。過呼吸では呼吸するほど緊張、不安、恐怖が強まり、ひどい場合はパニック状態に陥ります。
また、副交感神経は息を吐いているときに活発になり、逆に交感神経は息を吸っているときに活発になります。「吸う」ことに意識を集中してしまうと、交感神経が優位になるのです。費やす時間も、吸気に対して呼気は最低でも倍以上はとらないと、副交感神経が優位になりません。例えば、5秒かけて息を吸ったのであれば、10秒以上かけて吐きましょう。
そして、一番重要なのは「息を全て吐ききる」ということ。息を全て吐ききった瞬間に副交感神経にスイッチが入ると言います。ただ息を吐いても、息が残っている状態では、副交感神経の切り替え効果は不十分です。
以上をまとめると、正しい深呼吸は次の通りです。
・鼻から息を吸い、その2倍以上の時間(10秒以上)をかけて口から細く長く吐く
・息を全て吐ききる
・腹式呼吸(横隔膜を上下させる)
たった1分でも過緊張を鎮める効果は絶大です。もし、それでもまだ過緊張が鎮まらないようであれば、2分、3分と続けてください。
筋肉の緊張をほぐす
交感神経は心拍数を上げ、内臓への血流を抑えて、筋肉に血液を送り込みます。しかし、過緊張の状態では、心臓もドキドキしすぎて、必要以上の血液が筋肉に送られてしまいます。結果として筋肉のこわばり、身体がガチガチになるなどの過剰な「筋緊張」の状態に陥るのです。
その対処法は簡単です。ストレッチやマッサージによって、筋肉をほぐせば良いのです。筋肉がほぐれれば、副交感神経が優位になります。筋肉をほぐすだけで、心も体もリラックスできるのです。
飲食物を活用する
緊張すると喉がカラカラになるという人は、水を飲みましょう。水を飲むと、口の中が潤うことに加え、「胃結腸反射」によって消化管が動き出します。消化管が動くと副交感神経が優位になるため、水を飲むだけで過緊張が緩和されるのです。ただし、コーヒーに含まれるカフェインは、覚醒作用を有し、交感神経を優位にするので注意しましょう。
また、空腹時は交感神経の働きが活発化します。生物学的に空腹になると捕食活動をする必要があります。そのためには、覚醒レベルを上げて、集中力を高めて、獲物を探し、獲物を捕らえるために身体機能をアップしなければいけません。一方、食事をすると、消化のために腸が動き出します。腸が動くと副交感神経が優位になります。空腹時は交感神経が、満腹時は副交感神経が優位になるのです。したがって、緊張しやすい人は、副交感神経に切り替えるために、完全に空腹な状態は避けて、軽く何か食べておいた方が良いでしょう。さらに、しっかりと噛んで食事をすれば、咀嚼によってセロトニンが活性化するため、リラックスの方に傾きます。
交感神経の働きを抑える
ノルアドレナリンが緊張を左右する
突然、目の前にモンスターが現れました。さあ、どうする?
ぼーっとしていると、間違いなく殺されます。そのため、このような緊急事態に遭遇した場合は、闘うか逃げるかを瞬時に判断して、闘うならすぐ武器を手に取って攻撃する、逃げるなら一目散に逃げる。とにかく早く判断し、早く行動にうつすことが生きながらえるためには絶対に必要です。この追い詰められた状況において、一瞬で正しい判断を行うために、交感神経の神経伝達物質として放出される脳内物質が「ノルアドレナリン」です。ノルアドレナリンは「闘争か逃走か」の物質(英語では「Fight or Flight」の物質)と呼ばれ、分泌されると、脳が研ぎ澄まされて、集中力が高まり、判断力が高まります。私たちを生きるか死ぬかの限界状況から救ってくれる、危機回避のための緊急物質です。「火事場の馬鹿力」「窮鼠猫を噛む」と表現されるように、人間が追い詰められたときに普段よりはるかに高いパフォーマンスを発揮するのは、まさにノルアドレナリンの作用です。
ところが、モンスターと遭遇した瞬間、間髪を入れずこちらに向かって飛びかかってきました。全身は恐怖に支配され、足はすくんで逃げ出すことができません。頭が真っ白になって、どうすれば良いかもわからない。ノルアドレナリンの分泌が増えると、「緊張」から「不安」へ、さらに「恐怖」へとエスカレートしていきます。本来、判断力を高め、瞬発力を高めるはずのノルアドレナリンですが、大量に分泌されると機能異常を起こしてしまうのです。筋肉への血流が増えすぎると、筋肉は緊張しすぎて体がこわばり足がすくみます。「頭が真っ白になる」というのも、ノルアドレナリンが出過ぎたときの兆候と考えられます。
つまり、適量のノルアドレナリンは私たちの脳や身体の働きを高めますが、過剰なノルアドレナリンはむしろマイナスの影響を及ぼします。ノルアドレナリンの分泌量をコントロールして、緊張を味方にする方法を学びましょう。
何度も練習を繰り返す
私たち人間は、未知のものや何が起こるかわからないものに対して恐怖を感じます。反対に、見たことがあるものや聞いたことがあるものはそれほど怖くありません。たとえレベルの高いモンスターであったとしても、相手が炎属性であると知っていれば、水属性の攻撃を選択して冷静に対処できます。事前に必要な情報を収集し、十分に対策を講じれば、緊張はやわらぐのです。できる限り本番を想定して、何度も何度も練習を繰り返しましょう。
ポジティブな言葉を発する
練習はもちろん、イメージトレーニングも非常に効果的です。このとき、合わせて「アファメーション」を行いましょう。アファメーションとは、なりたい自分になるための、言葉による思い込みづくりのことで、「肯定的な自己暗示」とも言われます。アファメーションによって自分に言い聞かせたことは、脳の脳幹網様体賦活系(RAS)を刺激し、脳内の神経回路の配線をつなぎ換えます。それによって、目標達成のための情報が集まり、それが過去の知識や体験と結びつくことで、実際に「発した言葉」が実現するのです。RASを活性化するためには、心の中で念じるだけでなく、「言葉に出す」「文字に書く」ことが重要です。
しかしながら、ここに大きな落とし穴があります。それは、「脳は否定語を認識しない」ということです。例えば、あがり症の人が「絶対に緊張しない!」「絶対に緊張しない!」と唱えれば唱えるほど、実際にはどんどん緊張してしまうのです。なぜなら、「緊張」という言葉だけが強烈にイメージされるからです。「否定語」の部分は、意識としては理解しているものの、無意識部分には認識されません。やり方を間違えるととんでもない逆効果になってしまうのです。
では、どう言えば良いのか。「リラックスしていこう!」、これで良いのです。ポジティブなワードを発すると脳はポジティブな方に向かい、ネガティブなワードや否定語を使うと脳はネガティブな方に偏ります。ネガティブなワードを発することは、「マイナスの自己暗示」をかけているのと同じです。余計に不安が強まるのでご注意ください。まずは何事も楽しんでいきましょう。
結局のところ、自信というものは思い込みでしかありません。だから、「私には自信がある」と自分の脳に思い込ませてしまえばいいのです。2012年にTEDトークで披露されたハーバード大学エイミー・カディー教授の研究によると、両手を大きく上げる「スーパーマン」、両腕を腰に当て胸を張る「ワンダーウーマン」のように、力強く見せる「パワーポーズ」を2分間とれば、自信が湧いてくるとのことです。研究では、このポーズをすることで、ストレスホルモンの「コルチゾール」が下がり、自信と関係性が強いとされる「テストステロン」が上昇することがわかりました。つまり、「自信があるフリをすれば、自信はあとからついてくる」ということです。
自分なりのルーティンを作る
人間の脳は、同時に物事を考えられる数には限りがあり、せいぜい3つまでとされています。そこで、この特徴を逆手に取って利用しましょう。緊張しやすい場面で行う自分なりの「ルーティン」を作っておくと、ルーティンを行うことに気を取られて、緊張に悩んでいる暇がなくなるのです。不安が不安を呼び、緊張が強まるということもありません。ルーティンは緊張対策として大いに役立ちます。時計の針を見ながらゆっくり深呼吸をしたり、日頃から硬くなりやすい身体の部位を入念にストレッチしたり、自分だけの必勝ルーティンを作りましょう。
教える・売ることが職業の人たちへ、科学的根拠に基づいて人の心を掴む方法を伝授します。