iPhoneを発表するスティーブ・ジョブズ
次のうち、どちらがプロサッカー選手に近づけると思いますか?
・クリスチアーノロナウドを目標にしている少年
・森田翔を目標にしている少年
両者とも幼少期から青春時代まで、人生のすべてをサッカーに捧げた同級生です。しかしながら、答えは明らかでしょう。そして、このことはプレゼンテーションにおいても全く同じであり、一流を知らなければ、その能力は決して上がりません。人であれ、モノであれ、一流に触れることが大切です。プレゼンスキルを磨きたいのであれば、一流のプレゼンターから学びましょう。
まずは、超一流のスティーブ・ジョブズのプレゼンをご覧ください。
今回はこのような一流のプレゼンができるようになるためのコツをご紹介します。
3の法則
アップル社でクリエイティブディレクターを務めたリー・クロウの逸話をご存知でしょうか? iMacの30秒のCMに、4つか5つのメッセージを盛り込むことをジョブズが提案したとき、次のようなやりとりが交わされました。
リーはメモ帳から5枚の紙をちぎると、1枚ずつ丸めはじめました。
「スティーブ、キャッチしてくれ」
と言って、紙の玉を1つテーブル越しに投げました。
スティーブは難なくキャッチして、投げ返しました。
「これが良い広告だ」
リーが言いました。
「またキャッチしてくれ」
と言って、紙の玉5つ全てをスティーブのほうに投げました。
スティーブは1つもキャッチできず、紙の玉はテーブルや床に落ちました。
「これが悪い広告だよ」
この逸話にあるように、メッセージはまず受け取ってもらわなければ話になりません。プレゼンを行うとき、ついあれもこれもと言いたくなりますが、何を伝えるかでなく、何を伝えないかについても考えることが重要です。
先に紹介した動画では、ジョブズは、Mac、iPodに続く3つ目として、「革新的な新製品を3つ発表します」と述べました。
「1つ目はワイド画面タッチ操作のiPod、2つ目は革命的携帯電話、3つ目は画期的ネット通信機器」
「タッチ操作iPod、革命的携帯電話、画期的ネット通信機器」
「iPod、電話、ネット通信機器」
「iPod、電話、…もうお分かりですね?」
これら3つを繰り返すことで、聴衆は興奮に包まれます。しかしながら、果たして、本当にこれだけでしょうか? 実際は違うはずです。iPhoneは、カメラもあるし、本も読めるし、スケジュール管理だってできる。革新的な機能は他にもたくさんあったにもかかわらず、伝えるのは「3つ」に絞ったのです。
その理由は、3つより少ないと心理的に説得力が足りなくなり、3つより多いと脳科学的に記憶しにくくなるからです。「3匹の子豚」も、「世界3大美人」も、コロナ禍に叫ばれている「3密」も、覚えやすい。「心技体」も、「うまい・やすい・はやい」も、「見ざる・言わざる・聞かざる」も、説得力がある。だから、オリンピックのメダルの数も、アラジンが魔法のランプに叶えてもらえる願い事の数も、私が当記事で伝えているポイントの数も、「3つ」なのです。これらのように挙げ出したら枚挙に暇がありません。「3」はマジカルナンバーであり、私たちの周りに溢れています。このことはプレゼンターにおいて最も重要な概念です。
フォトリーディング
これを理解しているのとしていないのとでは、大きな違いがあります。フォトリーディングとは、「ポール・シーリイによって提唱された速読法で、文字を画像として処理することで1分間に25,000文字を読解することが可能とされている」というものです。
これをプレゼンに応用しましょう。つまり、文字処理能力よりも画像処理能力の方が理解するスピードが格段に速いことを考慮して、写真やイラストを文字の代わりに利用するのです。例えば、下記のうち、どちらの方が理解しやすいですか?
文字だけだと、読むのに時間がかかるばかりか、読む気力そのものを失いかねません。ポイントを絞り、写真やイラストで表すことによって、はるかに分かりやすくなります。スライドは「読むもの」でなく「見るもの」です。
ご覧の通り、その差は一目瞭然です。
さらに、情報を耳から聞いただけでは内容の約10%しか覚えられないのに対し、耳から聞くのと同時にその画像を見ると内容の65%を覚えていると研究で確認されています。視覚を使うと、口頭で説明するよりも6倍以上記憶に残るのです。心理学では、これを、「画像優位性効果」と呼びます。
・脳の9割は視覚情報
・記憶の8割は視覚情報
・視覚情報の処理速度は文字情報の6万倍
・視覚情報の活用で学習効果は4倍になる
画像で伝えることは、より分かりやすいだけでなく、より記憶に残るのです。ジョブズが用いたスライドには、文字はほとんどありませんでした。情報量ではなく、分かりやすさを優先しましょう。
ヘッドライン
ヘッドラインとは、新聞をはじめとする様々な記事、文章において内容の要点を非常に短い言葉にまとめ、本文より大きな字で章や節の最初に置かれる言葉のことです。
ジョブズは、新製品を紹介するとき、必ずシンプルな短い文をヘッドラインとします。このヘッドラインはプレゼンでもマーケティング資料でも繰り返し使われるので、消費者やジャーナリストが広告活動を手伝ってくれるようになります。このメッセージが会話や記事に繰り返し登場するようになるのです。
MacBook Air(アップル初のウルトラポータブルなノートブック)は、「世界で最も薄いノートパソコン」。
iPod(アップル初のMP3プレイヤー)は、「1000曲をポケットに」。
5GBもの記憶容量が売りでしたが、この数字を訴えても消費者の心に響きません。5GBは1000曲に相当します。さらに、1000曲が入るMP3プレイヤーは他にもありましたが、iPodほど小さいものはありませんでした。その違いが一発で伝わるこの一文は、ビジネス史上屈指の製品キャッチフレーズと言われています。これだけで、どういう製品であるのか、消費者にもよく分かるのです。
「どんなケータイより賢く、超カンタンに使える」。これが、iPhone。
言葉数は増えれば増えるほど、その力は落ちます。常に「それは、シンプルか?」と自問自答しましょう。
シンプルであることは、複雑であることよりも難しいときがある。物事をシンプルにするためには、懸命に努力して思考を明瞭にしなければならないからだ。だが、それだけの価値はある。なぜなら、ひとたびそこに到達できれば、山をも動かせるからだ。(スティーブ・ジョブズ)
教える・売ることが職業の人たちへ、科学的根拠に基づいて人の心を掴む方法を伝授します。